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犯罪組織に殺された少女がサイボーグとなって組織に復讐する
SF学園小説
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久梨原綾の久坂裕美に関する研究レポート
2001/8
@サイボーグαシリーズに関して
 本レポートに記載されるα○型サイボーグという型名は、八十神博士が組織在籍時に研究開発していた一連のサイボーグの型名を指し示すものであり、八十神博士が組織に誘拐される以前に研究開発を行い、その後、商品化されたフェイタル社(アメリカの医療機器メーカー)のサブボットαシリーズとは別のものである。
 また、ここで記載される【組織】とはクローン生態学の権威・黒須和馬博士が立ち上げた犯罪組織のことである。この【組織】には正式な名称がない。当初は、スポンサーであるドイツ・マフィアの依頼を受け、クローン技術を利用して特定臓器を製造し、供給していた。移植臓器ビジネスで多額の資金を得た黒須博士は、自分を学会から追放した日本社会への復讐のため、八〇年代半ばから本格的に日本転覆計画の活動を起こす。その第一歩が世界的な才能を持つ科学者の誘拐であった。八十神博士が組織に誘拐されたのが一九九三年であった。この時の八十神博士は、九一年に半身不随の患者をサイボーグ手術によって完全治療に成功させるなど世界的にも有名な存在であった。
 【組織】の八十神博士の誘拐は、【組織】にとっての一つの方向性を生み出す。それはクローン人間にサイボーグ手術を施して強力な兵器人間を大量に生産し、サイボーグ兵団を組織することであった。
 αT型サイボーグは、クローン技術によって作られ、【急速成長装置】で成人まで成長させた人間にサイボーグ手術を施し機械化した人間のことを指す。
 先に触れたように当初、黒須博士はαT型サイボーグを大量生産し、軍隊を組織して、日本を制圧することを目論んだ。
 ところが、後にαT型サイボーグには致命的な弱点があったことが露呈される。それは【急速成長装置】により幼児から三十九時間で成人まで成長させられたクローン人間は冷凍保存下でなければ、ほぼ半年しか生きられないという点である。
 そこで黒須博士はもう一つの方向性を模索する。それが既存の人間のサイボーグ化である。黒須博士は拠点を日本に移し、過去に臓器移植ためにクローン臓器を提供した日本の有力者を脅し、秘かに廃校となった学園や医療施設を次々と買収。学園の生徒を利用し、人体実験を行う。そうして、造られたのがαU型サイボーグである。
 既存の人間をサイボーグ化するためには、当然、指示に従わせるための洗脳の必要性が生ずる。そのために利用されたのが【記憶制御装置(MEMORY CONTROL UNIT)】である。
 元々は、体内に人工臓器を移植された患者のストレスや苦痛を薬を用いないで抑制することを目的に八十神博士が開発したものだが、黒須博士はそれを人間の洗脳装置として改良する。
 本装置の特徴は、脳と神経細胞を仲介し、痛みの遮断や快楽の供給、感情抑制を主な機能とする。また、脳内の記憶の部分的、完全な遮断・解放も制御できる。これにより患者にとって苦痛となる記憶を思い出させないようにすることも出来る。
 記憶制御・感情抑制された際の人格や記憶は、基本、記憶に関してはメモリーディスクが脳の記憶部の代用を行い、人格に関しては機械的な制御により行われるが、思考そのものは実際の脳が行うため、ベースとなる脳により左右される。長期に渡る記憶制御は当然、記憶制御前と後で別人格を産む。融合を行うことは可能であるが、その場合、乖離が激しいと人格障害を起こすことが懸念される。
 αU型サイボーグの開発により、寿命問題は解決されたが、ここでさらなる問題が発生する。それはαU型サイボーグとなる人間は、性別、身長、体格が限定されるという点である。既にαT型サイボーグの製造時にも、性別が女性でないと、サイボーグ化には拒否反応が出やすいと言う問題が指摘されていたが、ここでさらに適用範囲を狭められてしまう。
 そこで、それらの問題の解消のために登場するのがαV型サイボークである。
 αV型サイボーグはベースはαU型と同じ既存の人間に機械化手術を行うものだが、一つ違うのは【無限動力ユニット】の搭載である。
 【無限動力ユニット】はユニット内でエネルギー鉱石を化学反応させ、無限にエネルギーを発生させる小型動力装置で、そのエネルギーの最大値は水素爆弾に匹敵する。エネルギー鉱石の製法については、当時、単独で開発に当たった八十神博士が知るのみであり、彼が亡くなった今となっては、その製法を知るのは彼の研究データを継承したとされる久坂裕美だけである。
 黒須博士はαV型サイボーグを強力な人間爆弾として利用し、兵の少なさを補う計画であったが、計画開始前に八十神博士が研究資料と【無限動力ユニット】を手に脱獄したため、その計画は変更を余儀なくされる。
A久坂裕美の生い立ちに関して
 裕美は一九八二年四月一八日、S県の森峰大学病院で生まれる。体重三二〇〇グラム。父は当時、外資系証券会社に務めていた日高次雄、母は当時、次雄の同僚であった千草。千草の妊娠をきっかけに三ヶ月後に次雄と結婚。
 次雄と千草の夫婦は結婚当初から折り合いが悪く、裕美が七歳の時、千草が家出同然に判を押した離婚届と裕美を残して自宅を出ていく。その後、正式に千草と離婚した次雄は仕事の忙しさもあって、裕美の世話を家政婦に任せきりにし、あまり家には帰らなくなる。一九九八年、緑宝女子高校入学。この時、裕美は次雄から大学の入学金は出さないことを告げられ、学校に申請した上でコンビニでアルバイトを始める。
B八十神博士と久坂裕美の出会いの経緯について
 組織の施設を脱出した八十神博士と久坂裕美がどのようにして出会ったのか。これに関して詳細な経緯はいまだ不明であるが、当時、裕美の家で爆発事故が起こり、その後、裕美が消息を断った点、爆発事故の三十分前に裕美は仕事を終え、アルバイト先のコンビニを出たという目撃証言がある点などから、彼女が何らかの形で八十神博士を自宅で匿い、その後、組織の追っ手に自宅を襲撃されたという推測が出来る。さらにその後、八十神博士が裕美にαV型サイボーグへの機械化手術を行った点から見ると、その襲撃で裕美が致命傷を負ったことも推測できる。
C裕美のサイボーグ化手術の疑問点
 逃亡の身の八十神博士が裕美の命を助けるには、サイボーグ手術以外に手はなかったことは納得できる。しかし、八十神博士が裕美へのサイボーク手術に際し、なぜ感情制御のみならず、従来記憶の遮断を行ったのか、ここに一つの疑問が残る。
 彼が裕美の生命維持そのものを考えていたのであれば、記憶の遮断は必要ない。彼が彼女の命を助けようとしたのは明らかだが、一方で、【無限動力ユニット】のエネルギーを利用したエネルギー・コートの装備など組織に対抗するための兵器と考えていた点も伺える。
 また、裕美に【絶対記憶】を埋め込んだ点も注目される。【絶対記憶】とは所謂、人間の本能に相当する部分と同一の要素を機械的に脳内に記録するものである。この【絶対記憶】内に「どのような状況下でも自らの体内の秘密を暴き出そうとする者の干渉は拒絶し、いかなる行動を用いてもこれを阻止するために全力を尽くす」という項目がある。
 これは裕美が何らかの形で洗脳されようとも、最終的に絶対記憶によって阻止することを意味する。これにより彼女は洗脳されることはないが、彼女は永久に自分を狙う者の存在との戦いに縛られることになる。八十神博士が【絶対記憶】を彼女に埋め込んだ理由は、組織や研究を狙う者たちへの警戒感からであろうが、それにより彼女が苦しむことは想定できたはずである。
 この問題に関し、一つの見解として考えられるのは、αV技術を投入して裕美をサイボーグ化した時点で、八十神博士の状況にかかわらず、裕美は組織から狙われる存在となったため、彼女自身で組織から自分を守る力を用意する必要性があったというものである。
 それであるなら、記憶の制御も家族や友人の安否という不安要素を取り除くためという理由が成り立つ。
 いずれにしても、八十神博士が亡くなった今となってはこの疑問点を解明するのは不可能である。
D【記憶制御装置】に於ける感情抑制機能に関する問題
 久坂智也との結婚以降、裕美の記憶制御装置に若干の歪みが生じている。本来、感情制御を受けた人間は、情に流された行動はとらないはずであるが、この数ヶ月の彼女の行動には多分の情に流された行動が見受けられる。先に述べたように記憶制御装置は裕美の精神と内蔵機器の安定を図るものである。ところが、記憶制御装置が万一にもうまく機能しない場合、【無限動力】の暴走の恐れもあり、極めて危険な状態となる。
 そのため、感情抑制の強化が必要であるが、現在のところ、裕美はその策を講じてはいない。
E【無限動力】の暴走に関する問題
 裕美の内部の【無限動力】は【パワーセーブ】機能により、最小限の電力のみを供給している。【パワーセーブ】機能は裕美の音声により、オン・オフを切り替える設定で、オフにした場合、【無限動力】は段階的に最大出力まで稼働する。造り出されるエネルギーはオフ時に彼女の背中から排出され、彼女のまわりを覆うエネルギー・コートの表層面から発散される。八十神博士死後、裕美はこの機能に改良を加え、ヘソの部分のエネルギー放出バルブと電子銃をケーブルで繋ぎ、電子ビームを発射させることを可能にした。いずれにしても、このエネルギーは強力な武器ではあるが、一方で【パワーセーブ】機能オフ時には必ず体外にそのエネルギーを発散させる必要性が生じる。万一、機能オフのまま、エネルギーが体内に充満した場合、【無限動力】は爆発し、周囲に水素爆弾級の被害が生じる可能性がある。
 ゆえに【無限動力】は常に危険を内包する極めて不安定な動力機関といえる。
F裕美の行動要因に関して
 黒須博士と八十神博士の死後も裕美は依然として組織の壊滅活動を継続している。しかも、以前よりも積極的にである。この行動目的に関しては疑問が生じている。既に黒須博士を失い、組織そのものは巣で弱体化しており、大きな不安要因とはならないはずである。
 この点に関し、久坂智也との結婚が大きく関係していると思われるが、現在のところ、考える要素としては【絶対記憶】の要因を排除し、αV技術の廃棄が目的ではないかと思われる。というのも、【絶対記憶】の保護機能により【無限動力】は裕美自身にも自分の体内から取り除くことは出来ないため、αV技術の中核である【無限動力】を廃棄するためには【絶対記憶】の排除が欠かせないからである。